🕊️ 前回のお話:第26話「冬を迎えるための小さな準備たち」
朝、ふとした瞬間だった。 妻がオペラを撫でながら、ぽつりと言った。
「ねぇ、この子…毛並み、なんか良くなってない?」
たしかに、数日前までより艶がある。 指先がふれた瞬間、その変化がはっきりわかるほどだった。
まだ月齢六か月。 チワワでいうところの“猿期”がちょうど抜けはじめて、 毛色も、毛流れも、日替わりで少しずつ大人に向かっていく時期。
それでも――
ここ数日のオペラは、“変わり方”が違った。
ロングコートという未来の姿
ブリーダーさんの話では、オペラはロングコートチワワになるという。 でも骨格はハイオン寄りに見えるから、スムースの要素も残すのかなと ずっと勝手に思っていた。
ところが、“ロング”の気配が、ふとした瞬間に顔を出す。
耳の後ろの柔らかい毛。 首元のふわりとした膨らみ。 しっぽの付け根で、ほんの少しだけ長さを主張し始めた毛先。
完成までは二年ほどかかるらしい。 どんな姿になるのか――まだ誰にもわからない。
だけど、どんな形でもオペラはオペラだ。 未来に向かって伸びていく小さな毛先を見るたび、 たまらなく愛しくなる。
涙やけのこと、フードを変えた日
涙やけが気になって、いろいろ調べた。 動物病院の先生にも話を聞いてみた。その結果、「もしかしてフードかもしれない」と思い至ったのが八日前。
ほんの気持ち程度の変化だけど、 目元がわずかにすっきりして見える瞬間がある。
ほんの八日で? そう思うけれど、親バカなんだから仕方ない。
オペラの小さな変化に一喜一憂する日々なんて、 むしろ幸せの証みたいなものだ。
きっと、これからもそうだろう。
変わっていくのは「毛」だけじゃない
最近のオペラは、表情がほんとうに豊かになった。
抱っこをせがむときの、あの目。 聞き慣れた足音とそうでない足音を聞き分けて、 “帰ってきた人” にだけ尻尾を勢いよく振るところ。
眠る前に、ゆっくりと息を吐くあのタイミング。 ほんの数ヶ月前にはなかった仕草が、 当たり前みたいな顔でこちらの胸に刺さる。
犬は変わる。 あっという間に。 気づけば別のステージへ進んでいる。
そのスピードに胸が追いつかないこともあるけれど、 変わっていく姿を見るのは、不思議とさみしくない。
むしろ――
「あぁ、ちゃんと育ってるんだな」 そんな安心と誇らしさの方が大きい。
今日の毛並みと、これからの話
今朝の光で見たオペラは、昨日よりもすこし艶があった。 その一瞬を覚えていたくて、何度も撫でてしまった。
たぶん、明日はまた少し違う顔を見せる。 来週にはもっと違う。 半年後には、今日の姿をもう思い出せないかもしれない。
でも、それでいい。 「変わる」ということは、「生きている」ということだから。
いつか立派なロングコートになるかもしれないし、 そんなに伸びないまま大人になるかもしれない。
どんな未来でも、 その時々でオペラが見せてくれる「今」が尊い。
あとがき
犬の成長というのは、ある日突然ではなく、 毎日の中のほんの小さな変化の積み重ねだ。
その変化をひとつずつ拾い上げて、 「かわいいなぁ」と笑っていられる時間が、 思っている以上に人生をあたたかくしてくれる。
今日の毛並みも、今日の表情も、今日の寝息も、 明日にはもう“今日のもの”ではなくなる。
だからこそ―― 今、目の前にいるオペラを愛しく思う。
この先の毛並みがどう育とうと、 この子は、この子のまま変わらずそばにいてくれるのだと信じながら。
※アイキャッチはオペラの理想像です

