🕊️ 前回のお話:第25話「晩秋の庭で咲いた赤——クリムソングローリーが教えてくれたこと」
11月の空気が、すこしだけ冬の匂いをまとい始めた頃。
外へ出ると吐く息は薄く白く、家の窓には朝の光がやわらかく差しこんでくる。
そんな季節の境目に立つと、毎年のことなのに、なぜか心がそわそわしてしまう。
今年は、暮らしのひとつひとつを大切にしたい——そんな気持ちがあった。
そこで思い切って、冬を迎えるためのあれこれを整え始めた。
冬を迎える準備の中で
カーテンを冬仕様に変えるべく、朝の光の中で生地を手に取った。
厚みのある布を指でつまむと、これからやってくる季節の気配が、ほんのすこし重くなる。
「今年は早めに冬支度しよう」
そう決めていたはずなのに、気づけば十一月も後半だった。
新居はまだ、ところどころ“完成途中”のようで、
カーテンレールもロールスクリーンも、ようやく揃ったばかりだ。
それでも、冬を迎えるための準備をひとつずつ進めるたびに、
部屋の空気が少しずつ “冬の家” に変わっていくのを感じた。
机の上の静かな高揚
電動昇降デスクが届いた。
ボタンを押すと、「ス…」とわずかな音で天板が動く。
たったそれだけで、大人になった今も胸がふわりと浮く。
「ここからまた書いていくんだな」
そんな気持ちが、不意に肩へと落ちてきた。
新しい椅子、整ったコード類、手元の光をそっと支えてくれるモニターアーム。
どれも必要で、どれも少しずつ、“来年の自分” の形をつくっていく。
……ただ、カード明細のことを考えると少し背筋が寒くなる。
冬支度より先に、懐の冬が訪れそうな気もした。
小さな家族の冬支度
オペラと文鳥の保温グッズを選ぶ時間は、
この家の中でもっとも静かで、もっとも迷いの少ない時間だった。
ホットカーペット、保温電球、温度計。
寒さの降りてくるスピードに負けないように、必要なものを次々とカートに入れていく。
後回しにはしたくなかった。
冬が深まる前に、この小さな体たちが安心して眠れる場所を整えてあげたい。
届いた箱を開けると、オペラが鼻先をつっこんでくる。
興味津々で、ちょっと誇らしげで、
その仕草が「ぼくの準備、できた?」と聞いているようで可笑しい。
文鳥の保温電球を手にしたとき、
イノスケの面影がほんの少し胸に灯った。
冬を越えるために、あの子もたくさんの光に守られていた。
冬の入口で思ったこと
冬支度は、ただ寒さに備える作業だけじゃなかった。
家の空気をととのえ、
大切なものの居場所を見つめ直し、
これから来る季節を迎える覚悟を静かに積み上げる時間だった。
外は冷たい風が吹き始めている。
だけど家の中では、ひとつひとつの準備が、
灯りのように小さなあたたかさをともしてくれていた。
気づけば、来年の気配がすぐそこまで近づいている。
その入り口で、こうして家を整えている自分が、すこしだけ好きだった。
冬はもうすぐ。
そして、その先に続く日々もまた、静かに形を整え始めている。
あとがき
暮らしを整えるというのは、気持ちを整えることと同じなのだと思う。
ひとつ物を置き換えるだけで部屋の表情が変わり、
ケージの保温を整えるだけで家族の寝息が少しあたたかくなる。そんなささやかな変化が、心の奥に小さな灯をともし、
冬の冷たさをどこか優しいものに感じさせてくれた。季節が変わるたびに、こうして暮らしも深くなっていく。
その積み重ねが、来年の自分をきっと支えてくれる。
そう思える冬の入口だった。

