🕊️ 前回のお話:第17話「灯が揺れる夜に」
冬の風が静かに入り込んでいた。
わずかに開けた窓辺から、やさしい冷たさが部屋の奥へ流れていく。
カーテンがふわりと揺れるたび、薄い影が床の上で形を変えた。
風に触れた空気が、ほんの少し澄んでいく。
その中に、昨日とは違う季節の気配があった。
窓辺に触れる風の音
風はほとんど音を立てない。
けれど、カーテンが揺れるわずかな気配が、
静けさの中で小さなリズムになっていた。
手を伸ばして、窓の縁に触れる。
指先がほんの少し冷たくて、それがなぜか懐かしかった。
昔の冬の朝を、一瞬だけ思い出す。
窓辺の光と、温度と、深呼吸した時の胸のひらき方。
記憶の粒が、少しずつ形を戻していく。
影が寄り添う場所
風がそっと触れるたび、
カーテンが柔らかな波のように揺れた。
床の上に映った光と影が、静かな朝をつくっていく。
オペラがいつの間にか足元に来て、
揺れる影をじっと見つめている。
耳だけが小さく動いて、
風の気配を確かめるようだった。
その横顔を見ていると、
今日という日のはじまりが静かにほどけていく感じがした。
風の冷たさと、部屋のぬくもり。
どちらも同じ朝の一部として寄り添っている。
冬の気配のなかで
ノートを開く。
ページの上を、薄い光がなめらかに滑っていく。
書くことは、思い出すことでもあり、
今を静かに確かめる行為でもある。
窓辺で揺れるカーテンの影が、
ノートの余白にそっと重なった。
それだけで、心の奥に灯りがともる気がした。
今日もまた、小さなひと幕が静かに始まっていく。
あとがき
冬の風は、時々とても静かで、
気づかないまま通り過ぎていく。でも、ふと揺れたカーテンの一瞬に、
忘れていた記憶がそっと呼び戻されることがある。そのささやかな気配が、
今日という日を、やさしく包んでくれますように。

