🕊️ 前回のお話:第38話「ペット用ヒーター購入で痛恨の勘違い、冬支度の失敗談」
冬の朝の光は、少しだけ色が薄い。
窓の外の空気は冷たくて、カーテンのすき間から入り込む光も、どこか遠慮がちに見える。
そんな日曜日、段ボールがいくつか届いた。
フレキシスポットの電動昇降デスクと、新しい椅子、モニター、モニターアーム。
箱たちがリビングに並んだだけで、部屋の空気が少しだけ「作業モード」に切り替わる。
冬を迎える前に、机まわりを整えたいと思っていた。
長く座る場所だからこそ、ちゃんと向き合える場所にしたかった。
冬の入り口に、暮らしを整える
段ボールをひとつひとつ開けていくと、金属のパーツやネジが、静かに顔を出す。
マニュアルを広げて、工具を手に取ると、それだけで少し背筋が伸びる。
電動昇降デスクの脚を床に寝かせて、天板をそっと重ねる。
ネジを締めるたびに、カチ、カチ、と小さな音が冬のリビングに響いた。
外は冷たい風が吹いているはずなのに、家の中には別の風が流れている。
暮らしを「整える」ときの、あの静かな高揚感。
模様替えとも違う、買い替えとも違う、これからの時間に少しだけ期待を込める感覚。
冬の入り口に、机をひとつ整える。
それは、これから迎える季節への、ささやかな準備のようでもあった。
マットブラックが連れてくる静けさ
天板と脚は、どちらもマットブラック。
光を強く反射しないその質感は、冬の弱い日差しとよく馴染む。
黒いモニター、黒いモニターアーム、黒いPC本体。
そこに、グレーの椅子がやわらかい中間色として加わると、部屋の一角だけ空気の密度が変わったように感じた。
マットブラックの天板に、窓からの光がそっと落ちる。
強いハイライトにはならず、静かなグラデーションになって広がっていく。
その影を見ていると、なぜか心も落ち着いてくるから不思議だ。
ごちゃついた色が少なくなると、音も少なくなる気がする。
黒とグレーを中心にした机まわりは、冬の部屋と相性のいい、静かな風景をつくってくれる。
椅子に向かって吠えた日
そういえば、少し前にも椅子をひとつ、リビングに運び入れたことがあった。
仕事用とは別の、くつろぎ用の椅子だ。
普段、ほとんど吠えないオペラが、その椅子を見た瞬間、急にスイッチが入った。
見慣れない形に驚いたのか、警戒したのか。
ウゥ〜ッ、ワフッ。
低めの声で唸るように吠えたかと思うと、
ワンッ、ワン!
今度は少し高めのトーンで、短く、はっきりと。
無駄吠えをしない子だからこそ、その反応はとても珍しい。
オペラにとっては、あの椅子は「突然現れた、よくわからない大きな何か」だったのだろう。
その様子を見ながら、思わず笑ってしまった。
でも同時に、オペラなりにこの家を「守ろう」としてくれているのかもしれない、とも思った。
今回のデスクと椅子、そしてモニターアーム。
オペラはどんな顔をするだろう。
新しい机の下で丸くなるのか、それともまた、少しだけ吠えてみせるのか。
そんなことを思いながら、最後のネジを締めていった。
冬の光と、新しい机のはじまり
組み立てを終えて、電源を入れる。
モーターの小さな音とともに、デスクがゆっくりと上下する。
その動きを見ているだけで、なんだか新しい季節の始まりを見ているような気分になった。
椅子をそっと引いて、グレーの座面に腰を下ろす。
マットブラックの天板に両肘を置くと、冬の光が、手元だけやわらかく照らしてくれる。
ふと足元を見ると、オペラがこちらを見上げていた。
さっきまで少し距離を取っていたのに、気がつけば新しい机のすぐそばまで来ている。
警戒しているような、でもどこか興味津々な目。
「大丈夫だよ」と声をかけて、天板を軽くなでてみせる。
オペラは首をかしげてから、ゆっくりと机の下に入り込み、そこで小さく丸くなった。
冬を迎える部屋の中で、黒い机がひとつ増えた。
きっとここで、これからたくさんの時間を過ごすのだろう。
コーヒーを置いて、文章を書いて、時々手を止めて、足元の寝息を確かめる。
外の風が冷たくなっていくぶんだけ、部屋の中の「居場所」を整えていく。
この机のそばで迎える冬は、少しだけ、楽しみが増えた冬になりそうだ。
あとがき
季節が変わるたびに、暮らしの中で必要になるものは少しずつ変わっていく。
それは、大きな出来事ではなくて、机ひとつ、椅子ひとつの違いかもしれない。けれど、その小さな変化にあわせて部屋を整えることは、
これから先の自分の時間を、静かに歓迎する行為でもあるのだと思う。新しい机の下で丸くなるオペラを見ながら、
この冬も、ゆっくりと、ていねいに過ごしていこうと思った。

