教官は、やさしい兄貴だった

夕暮れの教習所コースで大型バイクにまたがる教官と、後方で待機する教習生たち。大型自動二輪教習の一場面。 バイクという存在

🕊️ 前回のお話:第109話「波状路 ― なぜか、できた。そして音で目が覚めた」


教習も回数を重ねるうちに、
気づけば13名の教官に教わっていた。

若い人もいれば、ベテラン勢もいる。
最初はみんな「評価する人」だと思っていた。
減点する人。合否を左右する人。

でも、教習が進むにつれて、その印象は少しずつ変わっていった。

いつの間にか、教官は“兄貴たち”のようになっていた。


若い教官と、急制動

急制動で褒めてくれた教官は、若い世代だった。

「うまくできてるよ。問題ないね。どこが苦手なの?」

その一言で、急制動が好きになった。

希望欄に「褒められると伸びるタイプです」と書いた自分を、
ちゃんと見てくれていた気がした。

単純だな、と自分でも思う。
でも、人はそうやって伸びることもある。

できている部分を認めてもらえると、
次はもっと良くしたいと思える。

あの日、急制動は“苦手種目”から外れた。


一本橋ニキ

一本橋で僕の事を苗字を呼び、
檄を飛ばしてくれた教官は中間世代だった。

「次いこう!」「大丈夫!」

応援されながらバイクを運転するなんて、想像していなかった。

叱るでもなく、煽るでもない。
信じている空気があった。

あの声がなければ、
10秒を越えようと踏みとどまれなかったかもしれない。

一本橋の上で揺れていたのはバイクだけじゃない。
自信も揺れていた。

そのとき、声が支えになった。


ベテラン勢の背中

波状路や急制動で見本を見せてくれたのは、ベテラン勢だった。

派手さはない。
でも、揺るがない。

急制動は“普通”に見えた。
波状路は“奏でて”いた。

音が違う。
姿勢が崩れない。
無駄がない。

言葉で多くを語らなくても、
動きがすべてを伝えていた。

経験の厚みは、姿勢や音に滲むのだと知った。


教えなかった優しさ

振り返ると、教官たちはすぐに答えを与えなかった。

一本橋の本質も、急制動の再現性も、
最初からは教えない。

もどかしい瞬間もあった。
早く教えてくれればいいのに、とも思った。
※最初に説明があったハズだが、頭に入ってなかったかもしれない

でも今は分かる。

気づく瞬間を待っていたのかもしれない。

それは放置ではなく、信頼だった。

できるようになる過程を、
横で見守っていたのだと思う。


13人の兄貴たち

教習中、何度も目が合った瞬間があった。

ミラー確認をしたとき、
小さく頷いてくれたこと。

転倒してバイクを起こしたあと、
余計な言葉をかけなかったこと。

できたときは褒める。
できていないときは、静かに修正する。

強くもなく、弱くもない。

ただ、隣に立っていた。

教官たちは、どこか兄貴みたいだった。

血はつながっていない。
でも、距離は遠くなかった。

ずっと前からバイクに乗ってきた人の背中。
16歳で免許を取り、
毎日走ってきた人の背中。

その少し後ろを、
やっと免許を取れる年齢になった自分が走っている。

経験も、走行距離も、圧倒的に違う。
当然、技量も違う。

でも、不思議と焦らなかった。

置いていかれる感じがなかったからだ。

前を走りながら、
ほんの少しだけ速度を緩めてくれている。

言葉は多くない。
でも、必要なときだけ声が飛ぶ。

「大丈夫。」
「今の、悪くない。」

その一言で、十分だった。

答えはすぐにはくれない。
でも、見放しもしない。

気づくまで待つ。

それは厳しさではなく、
信頼だったのだと思う。

教習所は学校のようでいて、どこか違った。

評価の場でありながら、
伴走してくれる場所でもあった。

大型バイクに乗れるようになるまでの時間は、
自分一人の努力だけではない。

13人の兄貴たちがいた。

そして今も、
まだその背中を追いかけながら走っている。

そのことを、忘れたくないと思った。


あとがき

教官は、試験官ではなかった。

減点者でも、敵でもなかった。

隣に立つ人だった。

厳しさもあった。
でも、その奥には「乗れるようになれよ」という想いがあった気がする。

今回は、課題の話ではなく、人の話。

バイクを教わったというより、
姿勢を教わった時間だった。


📘 次のお話:第111話「技術ではなく、視点が繋がった日」


プロフィール
こんにちは、自由きままなライフログを書いている おぷっぷ です。

家族として迎えたチワワの「オペラ」と過ごす日々を中心に、 日常のささやかな出来事や感じたことを “そのままの言葉で” ゆるやかに綴っています。

オペラはまだ赤ちゃんで甘えん坊。 ふっとした仕草や表情に、あたたかさを感じる毎日です。 そんな小さな相棒と過ごす時間は、季節の移ろいをしみじみと実感させてくれます。

このブログでは、
・オペラとの何気ない日常
・心がふっと動いた瞬間
・飼い主として学んだこと、悩んだこと
・生活の中で見つけた小さな喜び
などを文章と写真で記録しています。

“note to self(自分への小さなメモ)” のように、 未来の自分がふと振り返ったとき、 温かい気持ちになれるページを残したい。

そんな気持ちで、ゆるく書いています。 どうぞ気軽に読んでいってくださいね。
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