🕊️ 前回のお話:第107話「通れた。でも、あれじゃない ― スラロームの話」
一本橋と並んで、急制動は苦手だった。
正直に言うと、
「教習時間、早く終われ!」
と思っていた。
希望欄に
“褒められると伸びるタイプです”
なんて書いたのに、指摘ばかり。
まぁ、できてないんだから仕方ないよね…
僕の最大の誤解
急制動とは、
“法定速度で走行中、目前に迫る危険物を急ブレーキで回避する練習”
そう思っていた。
だから、
- 速度を作ることに慎重
- ブレーキは徐々に握る
- 車体を乱さないように優しく
全部ズレていた。
お手本は“普通”だった
教官の見本走行。
拍子抜けした。
スタートから停車まで普通
- 音も普通
- 姿勢も穏やか
- 時速45kmを超えている
- 停止位置はむしろ手前
え?こんなんでいいの?
急制動に見えなかった。
僕が描いていた「危険回避」とは別物だった。
頭の中で数秒のシミュレーション
次は自分の番。
ほんの数秒の間に、頭がフル回転。
- 時速41km~42kmを作る
- どこでアクセルを緩める
- 惰性で進む
- ブレーキ開始位置で前後フルブレーキ
- 停車直前でクラッチ
- 左足を出す準備
グルグルと回した。
いざ出発。
あれ?
もしかして、できた?
完璧ではない。
でも、何かが繋がった。
その日は、そこで終わった。
数日後の答え合わせ
別の教官。
苦手な種目を聞かれ、
「一本橋と急制動です」
と答えた。
まず急制動を見てもらった。
返ってきた言葉。
「うまくできてるよ。問題ないね。どこが苦手なの?」
え?
ちゃんと見てた?
疑ってしまうほど、あっさり。
でも、その一言で、
急制動が好きになった。
自分って単純だなぁと思った。
でも同時に、
自信を持たせるのが上手い教官だな、と感じた。
急制動の本質
急制動は、パニック対応ではなかった。
再現性だった。
正確に速度を作り、
正確に止まる。
それだけ。
止まれると分かると、
スピードは怖くなくなる。
不思議な体験だった。
お手本を見た瞬間から、
理解が一段深まった。
覚醒、というほど大げさではないけれど。
でも確実に、
誤解は壊れた。
あとがき
走れることより、止まれること。
派手じゃない。
でも、一番大事。
急制動は、
僕にバイク運転への自信をくれた種目だった。

