🕊️ 前回のお話:第29話「秋の総括…静かに積もった季節の気づき」
ある朝、カーテン越しの光がいつもより白く見えた。
窓を少し開けると、冷たい空気がゆっくりと部屋に入り込んできて、
秋の終わりを告げるように肌へ触れた。
季節が変わる瞬間は、決して大げさではない。
音もなく、気配だけがそっと先に訪れる。
冬の気配がふっと忍び込んだ朝
足元の冷たさで、季節の変化に気づく日がある。
床の感触も空気の密度も、昨日とは少し違っていた。
吐く息がほんの少し白む。
手をこすり合わせたくなるような冷えが、袖口から入ってくる。
秋ではない。
でもまだ冬と言い切るには、ほんの少しだけ足りない。
その“境目”の中に、僕は立っていた。
秋の色が、ゆっくりと消えていく
季節が変わるとき、景色は急に変わったりしない。
秋の色は、一気に落ちるのではなく、少しずつ薄れていく。
木々の葉は風に揺られながら最後の光を抱き、
影の濃さが日に日に淡くなる。
「秋の終わり」ではなく、
「秋が引いていく」という感覚。
その静けさが、どこか愛おしかった。
オペラと冬の入口
散歩に出ると、オペラの耳が冷たい風にぴくっと動いた。
その仕草だけで、季節が確かに進んでいることがわかる。
家に帰ると、毛布に身をうずめる時間が長くなる。
小さな体が冬を誰より早く察している。
無邪気に転がりながらも、
肩に触れるぬくもりが前より少し恋しくなる。
そういう瞬間に、
“守りたい”という気持ちがまたひとつ強くなっていった。
冬支度という、心の支度
部屋の空気が変わると、暮らしの手ざわりも変わる。
コーヒーの香りが濃くなり、
ストーブや暖房の「最初の一回」が必要になる。
外から帰ってドアを閉めた瞬間、
外の冷たさと内のぬくもりがくっきり分かれる。
妻との会話も、どこか冬の入り口を意識している気がした。
「そろそろ毛布を出さなきゃね」
「オペラのホットカーペットも必要ね」
秋の総括で気づいたことを胸に、
少しずつ冬を迎える心の準備が整っていく。
秋から冬へ、静かに移ろう季節の橋
季節の境界線は、いつも曖昧だ。
でも、ある瞬間にふっと「変わった」とわかる。
秋が深めてくれた気づきは、
そのまま冬へ持っていける温度のようなものだった。
季節は変わる。
そして僕自身も、ほんの少しだけ変わっていける。
そんな気がした朝だった。
あとがき
季節の境目は目に見えない。 でも確かにそこに“気配”として存在している。 その微かな変化に気づけた日は、心がゆっくりと柔らかくなる。
今日もまた、季節とともに静かに歩いている。
