🕊️ 前回のお話:第27話「変わっていく毛並み、変わらない想い」
朝の冷たい空気が、窓の隙間からそっと入り込んでいた。
その日の僕は、いつもより心が繊細になっていたのかもしれない。
オペラのことを書いているうちに、
ふいに胸の奥がじんわりと温かくなって、
気づけば涙がひとつ落ちていた。
外では季節が変わろうとしている。
木々の色が薄くなり、風の匂いが深くなる頃。
そんな季節の気配が、
僕の内側にもそっと触れたのだと思う。
あの日、涙が落ちた理由
涙が落ちた理由を、うまく言葉にするのは難しい。
悲しみではなかった。
喜びとも少し違う。
胸の奥がふっとゆるみ、
守りたいものを思い出したときにだけ流れる、
静かな涙だった。
オペラがスリングから落ちてしまったあの日。
小さな体が震えるのを抱きしめながら、
“失うかもしれない”という言葉が胸の奥で鈍く響いた。
その記憶を文章にしていると、
あの時の気持ちが、ゆっくりと戻ってきた。
軽くて、重くて、温かい。
そんな命が、今もそばにあることが
ありがたくて仕方なかった。
あの日の涙は、
その気持ちの続きをそっと溶かしてくれたのだと思う。
季節の気配が心に触れる
窓の外では、季節が少しずつ進んでいる。
木々の色は淡くなり、風は乾きはじめ、
夕暮れの影はゆっくりと長く伸びる。
晩秋の空気は、どこか懐かしい。
夏の名残がすっかり消え、
冬の気配がそっと近づいてくる。
季節が変わるその瞬間には、
いつも胸の奥がかすかに揺れる。
理由はわからないけれど、
気温の変化や、光の角度、
そういう些細な違いが、
内側のやわらかな部分に触れてくるのだ。
あの日流れた涙も、
きっとこの季節の「移ろい」が
そっと背中を押したのだと思う。
オペラの体温が教えてくれたこと
オペラは、今も変わらず僕のそばにいてくれる。
朝、丸くなって眠る姿。
風の匂いを嗅いで耳をふるわせる様子。
抱き上げると伝わってくる、
小さくて確かな体温。
そのすべてが、「いま」を生きているという証だ。
スリングから落ちたあの日、
僕は初めて“命を預かる”ということの重さに触れた。
小さく震える体を抱きしめた瞬間、
守りたいという気持ちが
胸の奥で強く灯ったのを覚えている。
あの日以来、
オペラの寝息や温度、まなざしに触れるたび、
その灯りは少しずつ大きく、
そしてやさしく広がっていった。
命はとても軽く、
だけど、驚くほど重い。
その両方を、オペラが教えてくれている。
心の揺れと季節の移ろい
涙がこぼれた朝、
それは突然で、理由もはっきりしなかったけれど、
いま振り返れば、
季節と心が重なった瞬間だったのだと思う。
木々が色を失い、風が冷たさを帯びていく。
そんな季節の変化に触れると、
胸の奥のやわらかな部分が、
静かに揺れてしまう。
その揺れが涙になった。
悲しみではなく、
「いま、この瞬間を大切にしたい」という想い。
オペラがそばにいてくれること。
季節が確かに進んでいくこと。
そして、僕自身が変わり続けていること。
そのすべてを感じ取ったとき、
涙は自然と落ちていた。
あとがき
季節の気配は、言葉よりも先に心へ届く。 それは、風の音だったり、光の弱さだったり、 どこか懐かしい匂いだったりする。
あの日の涙は、
そんな季節の“ささやき”に触れたときの、
小さな反応だったのかもしれない。オペラの寝息を聞きながら、
外の風を眺めていると、
胸の奥がそっと温かくなる。今日もまた、季節とともに、
静かに生きている。

