🕊️ 前回のお話:第101話「最初に教わったのは、バイクの重さだった」
その言葉を聞いたとき、
まだ何も始まっていなかった。
「今日から一本橋の課題に取り組みま~す!」
教官は、いつもの軽い口調でそう言った。
一本橋。
その瞬間、身体がわずかに硬直したのを自覚した。
まだ乗っていない。
まだ渡ってもいない。
お手本すら見ていない。
それなのに、
一気に飲み込まれた感じだった。
細い。
落ちる。
止まれない。
勝手に頭の中で映像ができあがる。
まだ現実じゃないのに、
すでに現実のような重さを持っていた。
最初の課題、一本橋
いよいよ第一の課題に取り組む時が来てしまった。
そう、来てしまったのだ。
教官がお手本を示しながら解説を始める。
でも、正直ほとんど頭に入ってこない。
内なる自分との対話のほうが勝っていた。
ある程度勢いをつけて乗り上げる
- 目線は前方
- ニーグリップ大切ですよ~
- 10秒以上かけて渡り切ってくださ~い
- フラついたらクラッチを微調整
- ハンドルを小刻みに揺らす
- 速度が出過ぎたらフットブレーキ
覚えているのは、それくらいだ。
「10秒以上」
その数字だけが、妙に引っかかった。
一本橋に初挑戦
一回目。
とりあえず、乗れた。
まずは自分を褒めよう。
そのまま渡り切った。
タイムは6.3秒。
……話にならない(苦笑)
二回目。
残り3分の1を残して落ちた。
右に傾く。
立て直せない。
そのまま、ストン。
「次は膝と太ももでタンクをしっかり挟んでくださいね~」
よし、次こそ。
三回目。最後の最後で右に傾き、下落。
四回目。6.8秒。
五回目。7.9秒。
六回目。落ちた。
数字だけ見ると、じわじわ伸びている。
でも、10秒には遠い。
途中で落ちる原因
渡り切れない原因は、なんとなくわかっている。
・目線が下向き
・ニーグリップが弱い
・腕と肩が固まってハンドル操作がぎこちない
・フットブレーキが使えていない
わかっている。
……つもりだ。
でも「わかる」と「できる」は、別の話だった。
橋の上では、
ほんのわずかな傾きが、
一気に大きな揺れになる。
一本橋は、細い板じゃない。
自分の弱さを、拡大して見せてくる場所だった。
自分の特性を再確認
初めて挑戦することは、
すぐにはできない。
習得まで、時間がかかる。
これは昔からそうだ。
一本橋は、その部類に入ったらしい。
正直、少し削られた。
でも、不思議と絶望はしていなかった。
経験上、
ある瞬間、何かが「繋がる」ことがある。
点と点が、急に線になる瞬間。
そこまでは、耐えるしかない。
あとがき
今日のところは、
できなかったという事実だけが残った。でも同時に、
もう「一本橋」という言葉だけでは終わらない。渡って、落ちて、
6.3秒で苦笑して、
右に傾いて地面を見た。その分だけ、
言葉は現実になった。重さは、頭の中だけのものではなくなった。
そしてきっと次は、
もう少しだけ、長く立っていられる。

