🕊️ 前回のお話:第117話「伏せは、教えたからじゃなかった」
あれは本物だったのか
昨夜の1分は、奇跡だったのだろうか。
それとも、始まりだったのか。
正直に言うと、少し怖かった。
一度できたことが、次もできるとは限らない。
あれが偶然ならどうする?
今日も跳ね続けたら、
僕はまた心を鬼にできるだろうか。
でも、やると決めた。
守りたいからだ。
再び、帰宅の儀式
低い声で「ただいま」。
目は合わせない。
ケージは開けない。
オペラは、昨日と同じように跳ねた。
いや、昨日より勢いがある気がする。
「昨日はたまたまだよ」と言わんばかりに。
胸が揺れる。
かわいい。
触れたい。
でも、触れない。
跳ねる。
無視。
跳ねる。
無視。
数秒が、やけに長い。
僕のほうが試されている気がした。
止まる瞬間
ぴょんぴょんが、ふと止まった。
静止。
昨日と同じ、一瞬の間。
そして――
伏せ。
今度は迷いが少なかった。
目が合う。
数秒後、ほんの少し誇らしげな表情。
「どう?分かったでしょ?」
そんな顔に見えた。
昨日は奇跡かもしれないと思っていた。
でも今日、分かった。
あれは偶然じゃなかった。
オペラは、ちゃんと考えている。
興奮の中でも、選択できる。
そして僕は、
その選択を待てるかどうかを試されている。
真実は、妻が握っていた
実は。
妻が密かに「伏せ」の練習をしていたらしい。
目撃した。
しかも話も聞いた。
オペラ、地べたでは伏せないらしい。
フローリング直は拒否。
でも――
ソファーの上。
ブランケットの上。
毛布が敷いてあればOK。
え?
そんな犬いる?
布がないと伏せないって、どういうこだわり。
盲導犬なんて、信号待ちでアスファルトに伏せてる。
改めて思う。
訓練された犬、すごい。
そして我が家の犬、こだわり強い。
あとがき
伏せは偶然じゃなかった。
でも、僕の手柄でもなかった。
妻の積み重ね。
オペラのこだわり。
そして、布の上。
いろんな条件が揃って、あの1分があった。
でもそれでいい。
完璧じゃなくていい。
地べたでは伏せない。
それも個性。
守りたいのは、完璧な犬じゃない。
この子らしさだ。
ドヤ顔の伏せは、今日も健在だった。
そして僕は思う。
一番訓練されているのは、やっぱり主かもしれない。

