🕊️ 前回のお話:第13話「冬のはじまりに」
風の冷たさが、少しだけ深まってきた朝。
窓の外の白い気配と、静かに広がっていく息のむこうに、
オペラが耳を澄ますように、身を寄せていた。
その横顔が、いつもより少しだけ大人びて見えた。
白い朝。ガラスに近づく息。
一度きりの冬の呼吸が、形を変えながら、すぐに消えていく。
その儚さが、胸にしみた。
風と息、光になる
外の光に照らされながら、
オペラの温度だけが、そこに確かにあるものとして浮かびあがっていく。
冷たい朝に、そこだけ薄いぬくもりがあった。
そのぬくもりに寄り添うように、影が静かに長く伸びていく。
流れが綺麗で、光→影の移りが映画的になる。
窓ガラスに手を当てる。指先が冷たかった。
白い息が形づくった輪郭を追うように見ていると、
その輪郭が、ほんの少し、つないだように見えた。
“過ぎていくもの”と、“残っていくもの”を。
まぎれしまう前に
オペラの白い呼吸が、朝に溶け込むほど、消えそうな感覚。
まだ名前のつかない気持ちが、胸の奥で揺れていた。
触れたそばから遠ざかっていくような、そんな一瞬。
すぐに消えてしまうかもしれない一瞬を、
カーテン越しの優しい光が、そっと結びとめている気がした。
オペラは耳を澄ますように、静かに外を眺める。
雪が降りそうな空の色。
昨日とは違う冷たさ。
同じ場所に立っていても、季節が少しずつ進んでいる。
いつの間にか肩に触れた温度が、
今日の時間に小さな印をつけたように思えた。
冬の呼吸
ストーブの灯りがほのかに揺れ、
部屋の空気は柔らかく、ゆっくりと動いている。
コーヒーの香り、陽のインクの匂い。
そして、オペラの温度。
それらがひとつに溶け合い、
ひとつの朝を静かに形づくっている。
めくるノートのページに書いた、今日の一行を思う。
白い息の向こうにあるものを。
この瞬間のために。
あとがき
白い息は、冬の手紙のようだ。
形のない言葉が、静かに空へ溶けていく。
消えていく瞬間にだけ、確かに存在していた証。それは、今日ここに立っているというしるし。
静かに、やさしく。

