🕊️ 前回のお話:第111話「技術ではなく、視点が繋がった日」
試験前なのに、思いのほか静かだ
見極めを無事に合格し、いよいよ明日は卒検。
なのに、不思議なほど落ち着いている。
とにかく楽しいのだ。
焦りがなく、気持ちが澄んでいる。
58年生きてきて、「試験前」や「ステージ直前」に、こんなに心配事がない状態は初めてかもしれない。
昔の自分なら、数日前からそわそわしていた。
できなかったらどうしよう。
失敗したら恥ずかしい。
教官や周囲の目が気になる。
美容師時代のヘアーショー前夜なんて、緊張で身震いしていた記憶がある。
でも今夜は違う。
心は静かで、どこかワクワクしている。
過去の自分と、今の自分
以前の自分は、「結果」に縛られていた。
合格しなければ意味がない。
成功しなければ評価されない。
そんな思い込みが、知らず知らずのうちに自分を追い込んでいた。
けれど今回は、違う。
落ちたら落ちただけのことだし。
- 安全確認が不足した?
- 一本橋で足つき?はいはい。
- 波状路でエンスト?あらら。
- 急制動が強すぎ?それはそれで安全第一。
妙に冷静だ。
自分でも笑ってしまう。
でも、開き直りではない。
積み上げてきた時間がある。
見極め直前で、すべてが繋がった感覚がある。
「卒検に受かるため」ではなく、
「公道を走るため」に練習してきたと気づいたあの日から、気持ちは変わった。
点と点が、静かに繋がる
小学生の頃、自転車の安全指導でみんなのお手本に選ばれたことを、なぜか突然思い出した。
昭和60年代、普通自動車免許を一発試験で合格した日のことも。
あのときも、不思議と落ち着いていた。
そして今回。
普通自動二輪を持っていないのに大型教習を受ける自分を、根気よく指導してくれた教官たち。
背中を押してくれた妻。
いろんな人の存在が、ふっと浮かぶ。
合格しなきゃ、ではなく。
乗れるようになったよ、と報告したい気持ち。
子どもみたいな感覚
今、頭の中にあるイメージは、とてもシンプルだ。
「ほら、できるようになったよ。」
一本橋も。
スラロームも。
波状路も。
急制動も。
ジグザグした道も、うねうねした道も、ちゃんと走れる。
自転車に乗れるようになった子どもが、誰に頼まれたわけでもないのに、「見て!」と言うあの感じ。
自信過剰でも、傲慢でもない。
ただ、嬉しいのだ。
あとがき|静かなワクワク
明日は卒検。
でも今夜は、「戦う前夜」ではない。
静かに整った夜だ。
評価は明日ついてくる。
今はただ、積み上げてきた時間を信じている。
不思議だ。
緊張していないのに、胸は少し高鳴っている。
ワクワクしているのに、心は静かだ。
こんな前夜を迎えられるとは思わなかった。
明日、走るのが楽しみだ。

