🕊️ 前回のお話:第168話「バイクを契約したことを、なかなか言い出せなかった夜の話」
スピードトリプル1050と、ついにご対面した日の話を残しておこう。
ついに、この日が来た。
…とはいえ、契約してからまだ1週間。
それでも、気持ちとしては「やっと会える」という感覚だった。
スピードトリプル1050。
自分が選んだ、あのバイク。
少しだけ緊張しながら、バイク屋さんの扉を開けた。
店内を見回す。
どこだ…?
するとすぐに店長さんが気づいてくれて、声をかけてくれた。
「こちらに保管してあります」
案内されたのは、売約済み専用のスペースだった。
その瞬間、ちょっとだけ現実味が増す。
——あぁ、もう自分のバイクなんだな。
そして、目の前に現れた。
……え?
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思わず声が出そうになるのを堪えた。
想像していたより、はるかに状態がいい。
いや、いいどころじゃない。
「極上」と言ってもいいレベルだった。
「僕が思っていたよりも極上車でしたね」
店長さんがそう言う。
「本当ですね…これ、錆びてないですよね?もしかして車庫保管ですか?」
「こういうバイクは車庫保管の可能性が高いですね。しかも室内、換気や空調もあるような環境かもしれません。このハンドル周りのアルミ、見てください。綺麗すぎます」
言われて改めて見る。
確かに、異様なくらい綺麗だ。
年式を考えると、ちょっと考えにくいレベル。
ここで一気にテンションが上がった。
「跨ってもいいですか?」
「もちろんです」
恐る恐る、またがる。
足つきは…うん、なんとか。
踵は浮くけど、想定内だ。
ハンドル位置もそこまできつくない。
そしてクラッチを握る。
……重い。
「あれ、結構重いですね」
思わず口に出た。
教習車の感覚が残っていたのかもしれない。
「教習車と一緒にしちゃダメですよ(笑)」
店長さんの一言で、現実に引き戻された。
あぁ、これが“本物”か。
そんな感覚だった。
ひと通り確認していると、次に気になったのがタイヤだった。
メッツラー。
山は7分ほど残っている。
正直、悩んだ。
このままでも十分いける。
いや、むしろ普通なら交換しないレベルだ。
もったいない。
そう思う気持ちは確実にあった。
でも、もう一人の自分が言う。
——フォレスターの時、どうだった?
あの時も「まだいける」と思った。
結果、数ヶ月でひび割れ。
結局、交換。
あの時の判断は、正しかったのか?
今でも答えは出ていない。
さらに頭をよぎる。
原材料の高騰。
今後の価格上昇。
タイミングとしては“今”じゃないか?
「このまま使うか、新品にするか…」
頭の中でぐるぐる回る。
もったいない vs 後悔したくない
完全にそのせめぎ合いだった。
そして、決めた。
「新品、履かせます」
言った瞬間、少しだけスッとした。
これは“保険”だ。
未来の自分への。
そう自分に言い聞かせた。
それにしても——
興奮が収まらない。
「興奮冷めやらぬ」とは、まさにこのこと。
そんな自分に、少しだけ笑ってしまった。
あとがき
この日、バイク屋に来ることは妻にも伝えてあった。
ただ、それ以上は何も話していない。
帰宅後も同じ。
妻は何も聞かない。
僕も何も言わない。
完全に、静かな時間が流れていた。
そして僕は、
何事もなかったかのように過ごした。
——口は禍の元。
余計なことは言わない。
今は、それでいい(笑)
そんな一日だった。

