🕊️ 前回のお話:第103話「一本橋は競技じゃなかったと気づいた日」
その日は、いつもと変わらない教習だった。
総合コースを周回し、
指示どおりに種目をこなしていく。
特別な日ではない。
むしろ、淡々としていた。
でも、その淡々とした時間の中で、
ひとつだけ、妙な感覚があった。
普通自動車の後ろを1速で走る
信号待ちの普通自動車。
発進時のエンスト。
その後ろを、ゆっくりとついていく。
ほぼ1速のまま、真っすぐ
信号付近はずっと1速。
半クラとフットブレーキを微妙に使いながら、
車間を保つ。
あれ?
フラついていない。
まっすぐ、安定している。
無理にバランスを取ろうとしていないのに、
自然と進んでいる。
その瞬間、
頭の中で一本橋の映像が浮かんだ。
一本橋を思い出す
今までの一本橋は、
どこか“競技”だった。
落ちてはいけない種目
- 10秒以上
- 低速
- ハンドルを揺らす
- 落ちたら減点
数字と結果に縛られていた。
でも、今やっているのは何だ?
普通自動車の後ろを、
ただ1速で安定させて走っているだけ。
もしかして――
一本橋は、
この感覚のための練習だったのか?
橋の上で試す
種目練習の時間になり、一本橋へ向かう。
1速のまま、同じ感覚で
- 勢いをつけすぎない。
- 目線は前方。
- アクセルは開けすぎない。
- 前ブレーキは使わない。
- クラッチは切る。
- フットブレーキを軽く添える。
フラつきを感じたら、
太ももを締める。
半クラを使う。
進む。
焦らない。
終盤で少し傾きそうになったら、
半クラのまま、スッと抜ける。
渡り切った。
タイムは、9秒台後半。
もう一度。
10秒台前半。
もちろん8秒台もあった。
完璧ではない。
でも、違った。
身体が反応している。
大型バイクを“なんとかする”のではなく、
“扱えている感覚”があった。
競技から操作へ
一本橋は、
落ちないゲームではなかった。
低速で、バイクを安定させる練習だった。
周回コースの1速走行と、
まったく同じことをしていただけだった。
今まで、
大切なことを見落としていたのかもしれない。
教官は知っていたのかもしれない
なぜ、もっと早く言ってくれなかったのだろう。
「一本橋は低速走行の練習ですよ」と。
でも、もし最初から言われていたら、
本当に理解できただろうか。
待てよ!
確か、最初に言われていたかもしれない。
だけど自分が勝手に脳内変換していたのだ。
頭で知ることと、
身体でつながることは違う。
あの日の1速走行があったから、
一本橋が繋がった。
教官は、教習性が自分で気づいて習得する
瞬間を待っていたのかもしれない。
あとがき
あの日、一本橋は種目ではなくなった。
数字でも、減点でもなく、
操作だった。
低速で、大型バイクを安定させること。
それが、ようやく腑に落ちた。
完璧ではない。
自在に操れるわけでもない。
でも、
確実に一段、深くなった。
たぶん、この感覚は忘れない。

