🕊️ 前回のお話:第113話「卒検当日 ― 完璧ではない合格」
卒検が無事に終わった。
とりあえず合格はできた。
肩の荷が下りて軽くなったのは確かだ。
帰り道、始まった脳内討論
車に乗り込んで、帰路に就く。
車を運転しながら、信号待ちでふと考えた。
大型自動二輪に乗れる資格を得た。
ナナハンに乗れる。
そう思った瞬間、胸の奥が少し熱くなった。
バイク=ナナハン。
自分の中では、ずっとそうだった。
小学生の頃、16歳になったら絶対にバイクに乗ると決めていた。
当時の最大排気量は750cc。
それが“頂点”だった。
ケニー・ロバーツ。
フレディ・スペンサー。
エディ・ローソン。
ワイン・ガードナー。
ケビン・シュワンツ。
ハングオンでコーナーを駆け抜ける姿に痺れた。
漫画もそうだ。
『750ライダー』
『あいつとララバイ』
『バリバリ伝説』
大型バイクは、物語の中心にあった。
だからこれは、単なる憧れではない。
「やると決めたことを、やり切った」
その感覚に近い。
……でも。
本当に100%憧れじゃないかと言われると、ちょっと怪しい。
大型乗りたいマン vs 現実マン
自分の中に居る、大型乗りたいマンが言う。
「いよいよナナハンだぞ?」
「この歳でようやくだぞ?」
うん、分かってる。
でも、現実マンが腕を組む。
「原付しか経験ないよね?」
「125も250も400も、未知の世界だよね?」
痛い。
時速何キロで、どんな挙動をするのか。
体で知っている感覚が、まだない。
さらに意地悪マンが口を挟む。
「卒検でニュートラル二回入ったよね?」
……それは言わなくていい。
「ニーグリップ甘いって言われたよね?」
……やめて。
本当に怖いもの
大型が怖いわけじゃない。
転ぶのが怖いわけでもない。
本当に怖いのは――
未熟なまま、大きなものを扱う自分だ。
免許取りたては誰だって未熟だ。
経験を積めばいい。
そう割り切れれば楽だった。
でも、相手がある。
自分だけじゃない。
周囲の人の命も関わる。
だから慎重になる。
信号が青に変わる。
アクセルを踏みながら、深く息を吐く。
ナナハン世代の夢は叶った。
でも、夢に振り回されるのは違う。
会議はまだ終わらない。
大型乗りたいマンは静かに待機中。
現実マンは腕を組んだままだ。
結論は、急がない。
今日はただ、
浮かれきらなかった自分を、少しだけ誇りに思った。

